領域代表挨拶

ota

領域代表:太田 順
OTA, Jun

東京大学人工物工学研究センターの太田です.
ここでは,新学術領域研究「身体性システム」の歴史的経緯について説明したいと思います.
当該領域の基盤となったプロジェクトとして,文部省科研費重点領域研究「創発システム」(1995-1997.領域代表:神戸大学 北村新三先生),文科省科研費特定領域研究「移動知」(2005-2009.領域代表:東京大学 淺間一先生)の2つがありました.

「創発システム」では,創発性の概念を”個間・環境間の局所的な相互作用が大域的な秩序を発現し,生じた秩序が個体の振る舞いを拘束するという過程により,新しい機能等が獲得されること”と定義し,創発に関するシステム理論の形成を目指しました[1].「移動知」においては,生物に着目し,その適応行動が,生物にとって最も基本的で必須な知的機能である”という考え方のもと,このような適応行動の発現メカニズムの解明を目指しました[2].
「創発システム」では,要素と環境からなるシステムにおける相互作用について着目し,そのシステム原理に関する問題設定をしました.「移動知」では生物システムを対象として,環境・身体・社会に適応する要素の適応メカニズムの解明を目指して,Synthetic neuroethlogy等,生工連携に関するいくつかの新しい方法論を提案しました.

「身体性システム」では,前2プロジェクトによって得られた問題設定,方法論をベースに,生体の「自己なるもの」の脳内での表現ならびにそれが運動・行動・知覚等によりどのように変わるか―比較的ゆるやかに変動するため slow dynamics と呼びます―,の解明を目指します.その知見の,脳科学,リハビリテーション医学,システム工学への適用を目指す予定です.
本プロジェクトは,未踏の学際的な研究領域の形成を目指しており,若い発想を有する研究者を広く歓迎します.よろしくお願いします.


[1] 北村新三,まえがき (1999). 文部省科学研究費補助金[重点領域研究]「創発的機能形成のシステム理論」研究成果報告書,1-4.
[2] 淺間 一,特定領域研究「移動知」とその成果の概要 (2010). 「身体・脳・環境の相互作用による適応的運動機能の発現―移動知の構成論的理解―」平成17~21年度研究成果報告書, 1-5, Available: http://www.race.u-tokyo.ac.jp/~ota/mobiligence/act/doc/2009rep_ja.pdf, Accessed 2014 August 28.