研究項目A02

A02-1 身体変化への脳適応機構の解明

研究概要

疾病や加齢,運動訓練などによってヒトの筋骨格系は劇的に変化する.そのような状態でも合目的的運動が可能なのは,脳内の身体に関する多様な情報が集約された表象(脳内身体表現)が適応的に変化しているためであろう.しかし,筋骨格系の変化に対する脳内身体表現の適応機構は未知である.そこで本課題では,筋骨格系の入出力を担う末梢神経に様々な形で選択的に介入し,それによる脳内身体表現の適応的変化と運動制御機構の適応過程を解明する.ヒトと脳や筋骨格系の構造が類似したマカクサルをモデル動物として用い,神経挫滅,除感覚・運動神経,腱交差縫合などの方法を用いて末梢入出力に介入する.例えば,ウイルスベクターを用いたテタヌストキシンの末梢感覚神経への選択的導入によって,特定の筋からの感覚入力を選択的かつ可逆的に完全除去する.また腱交差縫合術を確立し(C02 項目と連携),機能の異なる二つの筋肉(例えば伸筋と屈筋:荻原が力学モデルを基に選択)の腱を外科的に付け替え,屈曲の運動指令により関節が伸展されるような状態をつくる.このように脳からの運動出力とそれに伴う筋骨格系からの感覚入力を人工的に乖離させ,それに対する中枢神経系の細胞集団レベルでの短期(fast dynamics)・長期(slow dynamics)の適応過程を皮質-脳幹-脊髄路系,大脳小脳連関ループにおいて電気生理学的に評価する.さらに,操作した筋に刺激を与えた際の神経応答を0.5mm 以下の空間分解能を持つ超高磁場(7 テスラ)MRI で計測・デコーディングし,適応後のサルの感覚-運動変換過程の変容を皮質コラムの精度で可視化して,身体構造の変化に対応する運動制御機構の変容を反映する「脳内身体表現マーカー」を抽出する.B02 項目との連携により,身体構造の変化に伴う脳活動と運動制御機構(筋シナジー構造)の変容の関連性をモデル化し,加えて,C02 項目と連携して,脳内身体表現への介入を用いた新たな運動機能リハビリテーションの概念を提案し,脳内身体表現マーカーの妥当性を検証する.

研究組織

seki

関 和彦
SEKI, Kazuhiko

  • 研究代表者 関 和彦(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 モデル動物開発研究部 部長)
  • 研究分担者 内藤 栄一(情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター 研究マネージャー)
  • 研究分担者 筧 慎治(東京都医学総合研究所 運動障害プロジェクト プロジェクトリーダー)
  • 連携研究者 井上 謙一(京都大学 霊長類研究所 助教)
  • 連携研究者 荻原 直道(慶應義塾大学 理工学部 准教授)
  • 連携研究者 梅田 達也(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 モデル動物開発研究部 室長)
  • 連携研究者 大屋 知徹(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 モデル動物開発研究部 室長)
  • 連携研究者 平島 雅也(情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター 主任研究員)
  • 連携研究者 池上 剛(情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター 研究員)
  • 連携研究者 廣瀬 智士(情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター 研究員)
  • 連携研究者 上原 信太郎(情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター 特別研究員)
  • 連携研究者 Ganesh Gowrishanker(Centre national de la recherche scientifique (産総研) 研究員)
  • 連携研究者 閔 庚甫(東京都医学総合研究所 運動障害プロジェクト 研究員)
  • 連携研究者 李 鍾昊(東京都医学総合研究所 運動障害プロジェクト 研究員)
  • 連携研究者 石川 享宏(東京都医学総合研究所 運動障害プロジェクト 研究員)
  • 連携研究者 本多 武尊(東京都医学総合研究所 運動障害プロジェクト 研究員)
  • 連携研究者 雨宮 薫(情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター 研究員)
  • 連携研究者 服部 憲明(大阪大学国際医工情報センター 臨床神経医工学寄附研究部門 准教授)
  • 連携研究者 三苫 博(東京医科大学 医学教育学講座 教授)

A02-2 姿勢-歩行戦略の変更に伴う脳適応機能の解明

研究概要

超高齢化に伴う脳疾患や運動器疾患の増加によって,本国では姿勢-歩行障害の罹患率が急増している.その結果,高齢者の転倒・転落死は増加し,その割合は認知症有病率と高い相関がある.従って,姿勢や歩行の障害を克服する手段の確立は,極めて緊急性の高い課題である.歩行障害は,筋骨格系の脆弱化や姿勢制御システム(神経系)の破綻により誘発される.特に,随意運動に先立って最適な姿勢を提供する“予期的姿勢制御”は「予測」に基づくfeed-forward制御であり,これには脳の高次機能が重要な役割を果たす.故に,適応的な姿勢-歩行戦略を実現するfeed-forward 制御機構の解明が,この課題を克服するための鍵を握る.そこで本課題では「環境と自己身体との空間的関係や各身体部位の認知情報である身体図式(脳内身体表現の一つ)が,予期的姿勢制御に必須であるという作業仮説」に立脚し,動物実験によって,身体図式の獲得プロセスと予期的姿勢制御の実行システムを解明する.サルの姿勢-歩行モデルを用いた神経生理学的研究では,①身体図式が保持される側頭-頭頂皮質に体性感覚・視覚・前庭感覚などをコードする多種感覚ニューロンが存在すること,そして,②姿勢-歩行戦略が異なる4足歩行と2足歩行では,多種感覚ニューロンの活動特性が異なること,の2点を解明する.また,ネコの姿勢-歩行モデルの神経生理学的研究では,ウイルスベクター多重標識法を用いて,③多種感覚ニューロンが予期的姿勢制御に必須であること,そして,④大脳皮質-網様体脊髄路系が予期的姿勢制御の実行システムであることを証明する.さらに,A02-1との共同研究では,7T-fMRI を用いたデコーディング技術により,サルの2足歩行学習過程(姿勢-歩行戦略の変更)に伴う身体図式の変容とこれを反映する脳内身体表現マーカーを同定する.本課題で得られる脳計測データや筋活動・運動パラメータをB02
項目(歩行数理モデル研究)に提供し,歩行のシナジー解析に役立てる.また,C02 項目との共同研究によって,サルで同定した脳内身体表現マーカーが,ヒトの姿勢-歩行リハビリテーションに有用であるか否かを検討する.

研究組織

takakusaki

高草木 薫
TAKAKUSAKI, Kaoru

  • 研究代表者 高草木 薫(旭川医科大学 医学部 教授)
  • 研究分担者 中陦 克己(岩手医科大学 医学部 教授)
  • 連携研究者 船越 洋(旭川医科大学 医学部 教授)
  • 連携研究者 杉内 友理子(東京医科歯科大学 医学部 准教授)
  • 連携研究者 日暮 泰男(山口大学 共同獣医学部 助教)
  • 連携研究者 大田 哲生(旭川医科大学 リハビリテーション部 教授)
  • 連携研究者 小原 和宏(旭川医科大学 脳機能医工学研究センター  助教)
  • 連携研究者 高橋 未来(旭川医科大学 脳機能医工学研究センター  客員助教)
  • 連携研究者 松本 成史(旭川医科大学 臨床研究支援センター 講師)