研究項目B01

B01-1 脳内身体表現のスローダイナミクスモデル

研究概要

適応的運動や運動主体感(sense of agency)は,脳内の身体表現に基づいて実時間で生成される.一方,この脳内身体表現は,運動・知覚経験を通じてゆっくりとした時定数で生成・更新される.本課題では,前者の生成メカニズムをfast dynamics,後者の生成メカニズムをslow dynamics と呼ぶ.脳卒中や幻肢痛などの諸症状は,運動生成時における実際の身体と脳内身体表現のずれが原因の一つとなっており,slow dynamics のメカニズムを理解することは効果的なリハビリ手法を導出する上で極めて重要である.本課題では,このslow dynamics の神経機構である前頭-頭頂ネットワークの力学系モデルを構築することで,運動・知覚経験から脳内身体表現が生成・更新されるslow dynamics のメカニズムを構成論的に明らかにする.具体的には,時間遅れやマルチモーダル感覚フィードバックを伴う心理物理学的実験によって,身体保持感(sense of ownership)や運動主体感が生成される条件(企図性,同期性,無矛盾性など)を明らかにするとともに,その知見を基に人工的刺激を意図的に付加し,知覚を操作することによるリハビリ効果を確認する.A01 およびC01 項目と連携し,神経生理学的な知見やリハビリの臨床データに基づきfast dynamics からslow dynamics が生成される数理モデルを構築するとともに,運動生成における脳内身体表現の表現形式を明らかにし,脳神経活動とモデル中の力学変数とを対応付けることで運動関連各部位の計算論的役割を解明する.また,神経生理学的およびリハビリ臨床医学的にモデルの合理性と,これから導かれる新たなリハビリ手法の有効性を検証する.これまでの移動知研究などで,fast dynamics やslow dynamics を記述する数理モデルや,マルチモーダルな刺激の操作と運動主体感生成の関係などに関してすでに独創的な研究成果と実績があり,この世界的に優位性を有する技術と知見を活用,発展させることで目的を達成する.

研究組織

asama

淺間 一
ASAMA, Hajime

  • 研究代表者 淺間 一(東京大学 大学院工学系研究科 教授)
  • 研究分担者 近藤 敏之(東京農工大学 大学院工学研究院 教授)
  • 研究分担者 田中 宏和(北陸先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 准教授)
  • 研究分担者 矢野 史朗(東京農工大学 大学院工学研究院 助教)
  • 研究分担者 井澤 淳(筑波大学 システム情報系 准教授)
  • 連携研究者 山下 淳(東京大学 大学院工学系研究科 准教授)
  • 連携研究者 矢野 雅文(東北大学 電気通信研究所 名誉教授)
  • 連携研究者 安 琪(東京大学 大学院工学系研究科 特任助教)【A02-1と連携】
  • 連携研究者 温 文(東京大学 大学院工学系研究科 特任研究員)